【Will&Nexus 05/49】ペンギンは、空を飛ばなくていい。

目次

ペンギンに「空を飛べ」と言う残酷さ

「もっとコミュニケーション力を上げなきゃ」「リーダーシップを発揮しなきゃ」。そう思って自分を追い込んだことはないだろうか。

ペンギンは鳥だ。でも、空は飛べない。

もしペンギンが「鳥なんだから飛べるはずだ」と思い込んで、崖から何度も飛び降りたらどうなるか。当然、墜落する。何度やっても飛べない。そしていつか、「自分はダメな鳥だ」と思い始める。

でも、ペンギンは水の中では誰よりも速い。時速36キロで泳ぎ、魚を捕り、厳寒の海を生き抜く。空を飛べないことは、ペンギンの「欠点」ではない。単に、特性が違うだけだ。

問題は、ペンギンが飛べないことではない。「飛ばなければならない」と思い込ませる環境の方だ。


「先輩のように喋れ」と言われ続けた1年間

僕自身の話をしよう。

30代の頃、転職して研修講師の仕事を始めた。「人に教える仕事がしたい」という強い思いがあっての転職だった。

だが、現実は甘くなかった。初めて登壇した企業研修で、僕の評価は散々だった。本来は二部構成のプログラムだったが、前半の時点で「この講師では後半は任せられない」と判断され、降板になった。

そこから約1年、僕は先輩や上司のやり方を必死に真似ようとした。話し方、間の取り方、スライドの見せ方。「こう喋るんだ」と教えられた通りにやろうとした。でも、うまくいかない。真似れば真似るほど、自分の言葉ではなくなっていく。受講生の反応もどこかぎこちない。

結果が出ないまま1年が過ぎた頃、上司からこう言われた。「次の登壇で結果が出なければ、来期の新人研修では講師として計算しない」。事実上の最後通告だった。

追い詰められた僕は、ある決断をした。

先輩のやり方を、細かいところは無視しよう。

ダメだったとしても、自分が本当にいいと思うことをやろう。自分が「こう伝えたい」と思う形で、自分の言葉で話そう。もうこれが最後かもしれないのだから。

結果は、受講生のアンケートでオール5。コメント欄には感謝の言葉が並んだ。

1年間、先輩という「鷹の飛び方」を必死に真似ていた僕は、自分という「ペンギンの泳ぎ方」で勝負した途端に、結果が出た。


「自分を変える努力」が報われない理由

この経験を通じて、僕は一つのことを確信するようになった。

自分の特性を殺して、誰かの型にはめようとする努力は、ほとんどの場合、報われない。

これは「努力するな」という話ではない。努力の方向が間違っているという話だ。

多くの人は、何かがうまくいかないとき、「自分を変えなきゃ」と思う。もっとコミュニケーション力を上げなきゃ。もっとリーダーシップを発揮しなきゃ。もっと論理的にならなきゃ。

でも、それは「ペンギンに空を飛べ」と言っているのと同じだ。特性を矯正する「筋トレ」を続けても、たいてい苦しいだけで、劇的な成果は出ない。出たとしても、ずっと無理をし続けなければ維持できない。

では、どうすればいいのか。


「飛行機」を造るという選択

ペンギンが空を飛ぶ方法は、実は一つだけある。

飛行機に乗ればいい。

自分の翼で飛ぶ必要はない。飛ぶための「仕組み」を造れば、ペンギンのまま、どこへでも行ける。

そして、飛行機は一人で造る必要もない。自分で全部やろうとしなくていい。設計の得意な人、エンジンを作れる人、滑走路を整えてくれる人。周囲の力を借りることも、立派な「飛行機の造り方」だ。

これは比喩だけれど、僕が仕事で繰り返し実感してきたことでもある。

自分が苦手なことを、気合で克服しようとするのではなく、それを補う仕組みを造る。自分の特性を殺さず、そのままで目的を果たせる構造を設計する。一人で抱え込まず、得意な人の力を借りる。

研修講師の話で言えば、僕の「飛行機」は、先輩のスタイルを真似ることではなかった。自分が本当に伝えたいことを、自分の言葉で、自分のリズムで語ること。それが僕にとっての「泳ぎ方」であり、結果として受講生に最も届く「飛行機」だった。


「答えを教わる側」から「舞台を造る側」へ

ここで提案したいことがある。

あなたが今、何かうまくいかないと感じているなら、一度こう考えてみてほしい。

「自分が悪い」のではなく、「構造がズレている」のかもしれない。

誤解してほしくないのは、「能力を磨く努力は要らない」と言いたいわけではないということだ。研修講師の話にしても、最初の僕にはシンプルにスキルが足りていなかった。先輩の教えを正しく理解しきれていなかった部分もあったと、今は振り返っている。基礎を磨く段階は、確かにある。

ただ、基礎を積んだ上でも、なお苦しい。頑張っているのに結果が出ない。そういう状況に陥ったとき、「まだ努力が足りない」と自分を追い込む前に、一度立ち止まって考えてみてほしい。

自分の特性と、今の環境や仕組みが噛み合っていないのではないか。

評価制度、チームの配置、情報の流れ方、仕事の進め方。こうした構造と、その人の特性がズレているとき、どんなに頑張っても摩擦が生まれる。そして、その摩擦を「自分の能力不足」だと思い込んでしまうことが、実はとても多い。

僕はこのシリーズを通じて、この「構造」を見抜き、書き換えていく考え方を伝えていきたいと思っている。

それは、「答えを教わる側」から「舞台を造る側」に回ることだ。

環境に合わせて自分を矯正するのではなく、自分の特性を活かせるように環境を設計し直す。僕はそういう人のことを、「設計者」と呼んでいる。


設計者という生き方

設計者のスタンスは、シンプルだ。

「人」を責めない。「構造」を疑う。

何かトラブルが起きたとき、「あいつが悪い」「自分がダメだ」と考える代わりに、「この仕組みのどこにバグがあるのか」と考える。

感情的になりそうなとき、それを「自分の未熟さ」と捉える代わりに、「構造から送られてきたバグ報告だ」と捉える。

これは、冷たい考え方ではない。むしろ逆だ。人を責めないからこそ、本当の原因にたどり着ける。本当の原因にたどり着けるからこそ、根本から変えられる。

「もっと頑張れ」という精神論では、人は変わらない。でも、構造を一つ書き換えるだけで、同じ人が驚くほど変わることがある。


あなたはペンギンのままでいい

最後に、もう一度言いたい。

あなたは、自分を変える必要はない。

「もっとこうならなきゃ」「あの人みたいにならなきゃ」。そういう声が頭の中にあるなら、一度、それを脇に置いてほしい。

問題は、あなたではない。あなたの特性と、今の構造の「噛み合わせ」だ。

ペンギンはペンギンのまま、飛行機を造ればいい。

このシリーズでは、その「飛行機の造り方」を一緒に考えていく。別の記事では、あなた自身の中にある「燃料」、つまり内側から湧き出すエネルギーの見つけ方についても書いている[※1]


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この記事を書いた人

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程修了。

新卒から総合コンサルティングファームに入り、約6年ITや業務のコンサルを行う。研修会社に転職し、研修講師・企画等を行ったのち、人事領域全般に関わる、人材紹介会社グループのコンサルティングファームに。社内から組織や人材を良くしたいという希望から、事業会社で人事責任者などを経験。

趣味は多岐にわたる。断続的に続いているものだけでもゲーム(特にRPG, ドラクエシリーズ)、小さい頃から好きだった音楽(特に歌うこと)、社会人になってからフィットネスクラブ通い、コロナになってから始めた写真などは今も断続的に行っている。

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