ペンギンに「空を飛べ」と言う残酷さ
「もっとコミュニケーション力を上げなきゃ」「リーダーシップを発揮しなきゃ」。そう思って自分を追い込んだことはないだろうか。
ペンギンは鳥だ。でも、空は飛べない。
もしペンギンが「鳥なんだから飛べるはずだ」と思い込んで、崖から何度も飛び降りたらどうなるか。当然、墜落する。何度やっても飛べない。そしていつか、「自分はダメな鳥だ」と思い始める。
でも、ペンギンは水の中では誰よりも速い。時速36キロで泳ぎ、魚を捕り、厳寒の海を生き抜く。空を飛べないことは、ペンギンの「欠点」ではない。単に、特性が違うだけだ。
問題は、ペンギンが飛べないことではない。「飛ばなければならない」と思い込ませる環境の方だ。
「先輩のように喋れ」と言われ続けた1年間
僕自身の話をしよう。
30代の頃、転職して研修講師の仕事を始めた。「人に教える仕事がしたい」という強い思いがあっての転職だった。
だが、現実は甘くなかった。初めて登壇した企業研修で、僕の評価は散々だった。本来は二部構成のプログラムだったが、前半の時点で「この講師では後半は任せられない」と判断され、降板になった。
そこから約1年、僕は先輩や上司のやり方を必死に真似ようとした。話し方、間の取り方、スライドの見せ方。「こう喋るんだ」と教えられた通りにやろうとした。でも、うまくいかない。真似れば真似るほど、自分の言葉ではなくなっていく。受講生の反応もどこかぎこちない。
結果が出ないまま1年が過ぎた頃、上司からこう言われた。「次の登壇で結果が出なければ、来期の新人研修では講師として計算しない」。事実上の最後通告だった。
追い詰められた僕は、ある決断をした。
先輩のやり方を、細かいところは無視しよう。
ダメだったとしても、自分が本当にいいと思うことをやろう。自分が「こう伝えたい」と思う形で、自分の言葉で話そう。もうこれが最後かもしれないのだから。
結果は、受講生のアンケートでオール5。コメント欄には感謝の言葉が並んだ。
1年間、先輩という「鷹の飛び方」を必死に真似ていた僕は、自分という「ペンギンの泳ぎ方」で勝負した途端に、結果が出た。
「自分を変える努力」が報われない理由
この経験を通じて、僕は一つのことを確信するようになった。
自分の特性を殺して、誰かの型にはめようとする努力は、ほとんどの場合、報われない。
これは「努力するな」という話ではない。努力の方向が間違っているという話だ。
多くの人は、何かがうまくいかないとき、「自分を変えなきゃ」と思う。もっとコミュニケーション力を上げなきゃ。もっとリーダーシップを発揮しなきゃ。もっと論理的にならなきゃ。
でも、それは「ペンギンに空を飛べ」と言っているのと同じだ。特性を矯正する「筋トレ」を続けても、たいてい苦しいだけで、劇的な成果は出ない。出たとしても、ずっと無理をし続けなければ維持できない。
では、どうすればいいのか。
「飛行機」を造るという選択
ペンギンが空を飛ぶ方法は、実は一つだけある。
飛行機に乗ればいい。
自分の翼で飛ぶ必要はない。飛ぶための「仕組み」を造れば、ペンギンのまま、どこへでも行ける。
そして、飛行機は一人で造る必要もない。自分で全部やろうとしなくていい。設計の得意な人、エンジンを作れる人、滑走路を整えてくれる人。周囲の力を借りることも、立派な「飛行機の造り方」だ。
これは比喩だけれど、僕が仕事で繰り返し実感してきたことでもある。
自分が苦手なことを、気合で克服しようとするのではなく、それを補う仕組みを造る。自分の特性を殺さず、そのままで目的を果たせる構造を設計する。一人で抱え込まず、得意な人の力を借りる。
研修講師の話で言えば、僕の「飛行機」は、先輩のスタイルを真似ることではなかった。自分が本当に伝えたいことを、自分の言葉で、自分のリズムで語ること。それが僕にとっての「泳ぎ方」であり、結果として受講生に最も届く「飛行機」だった。
「答えを教わる側」から「舞台を造る側」へ
ここで提案したいことがある。
あなたが今、何かうまくいかないと感じているなら、一度こう考えてみてほしい。
「自分が悪い」のではなく、「構造がズレている」のかもしれない。
誤解してほしくないのは、「能力を磨く努力は要らない」と言いたいわけではないということだ。研修講師の話にしても、最初の僕にはシンプルにスキルが足りていなかった。先輩の教えを正しく理解しきれていなかった部分もあったと、今は振り返っている。基礎を磨く段階は、確かにある。
ただ、基礎を積んだ上でも、なお苦しい。頑張っているのに結果が出ない。そういう状況に陥ったとき、「まだ努力が足りない」と自分を追い込む前に、一度立ち止まって考えてみてほしい。
自分の特性と、今の環境や仕組みが噛み合っていないのではないか。
評価制度、チームの配置、情報の流れ方、仕事の進め方。こうした構造と、その人の特性がズレているとき、どんなに頑張っても摩擦が生まれる。そして、その摩擦を「自分の能力不足」だと思い込んでしまうことが、実はとても多い。
僕はこのシリーズを通じて、この「構造」を見抜き、書き換えていく考え方を伝えていきたいと思っている。
それは、「答えを教わる側」から「舞台を造る側」に回ることだ。
環境に合わせて自分を矯正するのではなく、自分の特性を活かせるように環境を設計し直す。僕はそういう人のことを、「設計者」と呼んでいる。
設計者という生き方
設計者のスタンスは、シンプルだ。
「人」を責めない。「構造」を疑う。
何かトラブルが起きたとき、「あいつが悪い」「自分がダメだ」と考える代わりに、「この仕組みのどこにバグがあるのか」と考える。
感情的になりそうなとき、それを「自分の未熟さ」と捉える代わりに、「構造から送られてきたバグ報告だ」と捉える。
これは、冷たい考え方ではない。むしろ逆だ。人を責めないからこそ、本当の原因にたどり着ける。本当の原因にたどり着けるからこそ、根本から変えられる。
「もっと頑張れ」という精神論では、人は変わらない。でも、構造を一つ書き換えるだけで、同じ人が驚くほど変わることがある。
あなたはペンギンのままでいい
最後に、もう一度言いたい。
あなたは、自分を変える必要はない。
「もっとこうならなきゃ」「あの人みたいにならなきゃ」。そういう声が頭の中にあるなら、一度、それを脇に置いてほしい。
問題は、あなたではない。あなたの特性と、今の構造の「噛み合わせ」だ。
ペンギンはペンギンのまま、飛行機を造ればいい。
このシリーズでは、その「飛行機の造り方」を一緒に考えていく。別の記事では、あなた自身の中にある「燃料」、つまり内側から湧き出すエネルギーの見つけ方についても書いている[※1]。
