【Will&Nexus 46/49】「完成形」を目指す組織は、必ず老いる。

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完成形という幻想

ここまで読んできて、「組織の完成形を作りたい」と思った人がいるかもしれない。構造を見抜き、バグを修正し、センターピンを打ち、全員のWillが流れる仕組みを作る。そして、「完成」。

でも、残念ながら——あるいは幸いなことに——組織に完成形はない

なぜなら、組織は機械ではなく、生き物だからだ。


生き物の「代謝」

生き物は、常に代謝している。

古い細胞が死に、新しい細胞が生まれる。食べ物を取り込み、エネルギーに変え、不要なものを排出する。この循環が止まったとき、生き物は死ぬ。

組織も同じだ。

人が入れ替わる。市場が変わる。技術が進む。顧客のニーズが変わる。競合の動きが変わる。

一度作った「最適な構造」は、環境が変われば最適ではなくなる。 だから、常に代謝し続ける必要がある。

記事14[※1]で「均衡は動的バランスだ」と書いた[※1]。自転車は走り続けているから倒れない。止まったら倒れる。組織も同じだ。


フィードバックループの自動化

代謝し続ける組織を作るためには、フィードバックループが必要だ。

フィードバックループとは、「結果を観測して、設計を修正して、また結果を観測する」というサイクルだ。

人間の身体には、このループが自動で動いている。体温が上がれば汗をかく。血糖値が下がれば空腹を感じる。いちいち意識して調整しなくても、身体が勝手にやってくれる。

組織にも、このループを実装できる。

たとえば、定期的な「不全の点検」。月に一度、「今、エネルギーが漏れている場所はどこか?」をチームで確認する。問題を見つけたら、構造を微調整する。また一ヶ月後に点検する。

たとえば、自動的に集まるバグ報告。記事45[※2]で書いた通り[※2]、失敗が自然に報告される仕組みがあれば、フィードバックは自動的に集まる。

設計者が毎回手動で点検しなくても、組織自身が不全を検知して修正するループ。 これが、代謝する組織だ。


不全は進化のサイン

ここで、不全に対する見方を一つ変えたい。

このシリーズの第1部では、不全を「解剖すべき問題」として扱った。境界線のズレ、時間軸のズレ、目的の消失、文脈の断絶、視座の欠如。

でも、不全が起きること自体は、必ずしも悪いことではない

不全は、「今の構造が、今の環境に合わなくなり始めている」というシグナルだ。つまり、環境が変化しているということ。そして、環境が変化しているということは、組織が生きているということだ。

不全がゼロの組織は、二つの可能性がある。一つは、完璧に設計されている。もう一つは、変化を感知できなくなっている

後者の方が圧倒的に多い。不全が見えないのは、不全がないからではなく、感知するセンサーが壊れているからだ。

不全を歓迎する。不全を「センターピンを打ち直すタイミングだ」というシグナルとして受け取る。 それが、代謝する組織のスタンスだ。


設計者が「次」へ移るリズム

記事41[※3]で「卒業」について書いた[※3]

代謝する組織には、設計者自身の代謝も含まれる。

一つのフェーズの設計を終えたら、次のフェーズに移る。今の構造が自走し始めたら、次の課題に向かう。

これは「飽きたから次に行く」ではない。組織の代謝のリズムに合わせて、設計者もステージを移動するということだ。

種を蒔いたら、芽が出るまで見守る。芽が出たら、水やりの仕組みを作る。仕組みが回り始めたら、次の畑を探しに行く。

設計者は、一つの場所に留まり続けるのではなく、リズムに乗って移動し続ける存在だ。


「次に行く」タイミング

僕自身のキャリアを振り返ると、転職のタイミングには一つのパターンがある。

途中で投げ出したことはない。どの会社でも、キリのいいところまではやった。仕組みを作り、動くことを確認し、自分がいなくても回る状態にしてから、次に移った。

では、何が「次」への引き金になったか。

自分の価値観と、会社の方針が異なると感じたときだ。

それは、会社が「悪い」という話ではない。方向性が違ったということだ。自分が「こうあるべきだ」と思う設計と、組織が進もうとしている方向が合わなくなったとき、そこに留まり続けることは、自分にとっても組織にとっても不健全だと判断した。

振り返ると、これは代謝のリズムそのものだった。一つのフェーズで自分の役割を果たし、構造を残し、次のフェーズに移る。設計者として組織の代謝を設計しながら、自分自身もまた代謝していた。

「辞める」と聞くとネガティブに聞こえるかもしれない。でも、僕にとっての転職は、代謝の一形態だった。古いフェーズを卒業し、新しいフェーズに移る。その繰り返しが、自分の設計力を磨いてきた。


生命体としての組織

このシリーズの第5部もそろそろ終わりに近づいている。

ここまでで、個人(第4部)と組織(第3部・第5部)をつなぎ、エゴの壁を溶かし、共通言語で配管を通し、機能を移管し、知恵を結晶化し、構造で安全を実装してきた。

それらすべてが統合されたとき、組織はどうなるか。

個人のWillが、構造を通じて、摩擦なく目的に届く。不全が起きても、自動的に検知され、修正される。設計者がいなくても、ハッピーが増幅し続ける。

それは、機械ではない。生命体だ。

環境に合わせて形を変え、不全を栄養に変え、自ら進化し続ける組織。

そんな組織を目指す旅の話を、次の第6部「未来への展望」で締めくくりたい。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程修了。

新卒から総合コンサルティングファームに入り、約6年ITや業務のコンサルを行う。研修会社に転職し、研修講師・企画等を行ったのち、人事領域全般に関わる、人材紹介会社グループのコンサルティングファームに。社内から組織や人材を良くしたいという希望から、事業会社で人事責任者などを経験。

趣味は多岐にわたる。断続的に続いているものだけでもゲーム(特にRPG, ドラクエシリーズ)、小さい頃から好きだった音楽(特に歌うこと)、社会人になってからフィットネスクラブ通い、コロナになってから始めた写真などは今も断続的に行っている。

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