【Will&Nexus 18/49】努力の「向き」が間違っている。

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努力は悪くない。ただ、向きを間違えると辛くなる

苦手なことを克服しようとして、ひたすら場数を踏んだ。本を読んだ。練習した。でも正直、辛かった。頑張るほど、自分が擦り減っていく感覚があった。

何かがうまくいかないとき、人には二つのアプローチがある。

一つ目は、自分を鍛えること。 苦手を克服しよう。もっと場数を踏もう。もっと我慢強くなろう。これを僕は「筋トレ」と呼んでいる。

二つ目は、仕組みを変えること。 自分の特性はそのままに、目的を果たすための構造を設計し直す。これを「飛行機を造る」と呼んでいる。

別の記事で、ペンギンの比喩を使った[※1]。ペンギンは空を飛べない。でも、飛行機に乗れば飛べる。自分の翼を鍛えるのではなく、飛ぶための道具を造る。

今回は、この「筋トレ」と「飛行機」の関係をもう少し掘り下げたい。ただし先に言っておくと、僕が言いたいのは「筋トレをやめろ」ということではない。この二つをどう組み合わせるか、その考え方の話だ。


「筋トレ」が輝くとき、辛くなるとき

筋トレそのものが悪いわけではない。

新しいスキルを身につけるプロセスの中には、試行錯誤の楽しさや、昨日できなかったことが今日できるようになる喜びがある。寄り道や回り道の中にこそ、学びの本質があることも多い。

ただし、ここで考えなければならないのは、その筋トレは成果に繋がっているのかということだ。

個人の趣味であれば、楽しいこと自体に価値がある。プロレスが好きで、うまくならなくても楽しいなら、それでいい。でも、組織の中ではそうはいかない。自分が成果を出せないことは、自分だけの問題ではない。周囲のメンバーにも影響が及ぶ。楽しいかどうかとは別に、「このやり方で目的が達成できるのか」という視点が要る。

そして、筋トレが唯一の解決策だと思い込んでしまうことが危険だ。

頑張っているのに結果が出ない。努力しているのに一向に前に進んでいる実感がない。それでも「まだ努力が足りないんだ」と自分を追い込む。この段階に入ると、筋トレは学びではなく、消耗になる。

たとえば、人前で話すのが苦手な人がいるとする。筋トレ的な解決策はこうだ。「場数を踏め」「練習しろ」「緊張に慣れろ」。これで改善する人もいる。でも、どんなに場数を踏んでも、根本的に大勢の前で話すことが得意にならない人もいる。そういう人に「もっと頑張れ」と言い続けるのは、ペンギンに崖から飛び降りろと言っているのと同じだ。

筋トレで無理に身につけた能力は、意識して維持し続けなければ消える。気を抜いた瞬間に元に戻る。それは「成長」ではなく、「常時稼働の応急処置」だ。


「飛行機」の力と、その落とし穴

では、飛行機はどうか。

飛行機的な解決策はこうだ。「大勢の前で話すのが苦手なら、一対一の対話形式に設計し直す」「資料を作り込んで、資料に語らせる」「得意な人に登壇してもらい、自分は裏方で設計する」。

どれも、本人の特性を変えていない。変えたのは「やり方」だ。仕組みの力で、苦手な部分を補っている。

ただし、ここにも注意が必要だ。

仕組みに全部を任せると、柔軟性が失われる。

すべてをマニュアル化し、システム化すれば、確かに効率は上がる。でも、環境が変わった瞬間に、そのマニュアルでは対応できなくなる。想定外の事態に、システムは弱い。変化に適応し、その場で判断できるのは、人間の持つ柔軟さだ。

車の歴史を考えてみるとわかりやすい。人が走るよりも馬車の方が速い。馬車よりも自動車の方が速い。そして今、自動運転という技術が現実になりつつある。移動の効率だけを考えれば、自動運転は理想的だ。目的地まで何もしなくても着く。

でも、道路工事や突然の天候変化への対応、ルートの臨機応変な判断。こうした「想定外」に対処できるのは、ハンドルを握っている人間だ。そして、自分の意志でルートを選んで走ること自体が、移動では測れない価値を持っている。

仕組みは万能ではない。すべてを仕組みで代替してしまったら、変化への対応力も、そこにいる「あなた」の個性も消えてしまう。


本当に大事なのは、「組み合わせ方」

だから、僕が本当に伝えたいのは、「筋トレをやめろ」でも「飛行機だけ造れ」でもない。

自分らしさを発揮するところにこそ、集中して努力する。そして、それ以外の部分を仕組みで補う。

これが、筋トレと飛行機の正しい組み合わせ方だ。

さっきの「人前で話すのが苦手」な例で言えば、こうなる。

もしその人のWillが「人に何かを伝えること」にあるなら、話す力を磨く努力には意味がある。それは辛い筋トレではなく、自分らしさを深める努力だ。ただし、「100人の前で話す」という形式にこだわる必要はない。少人数の場を設計するとか、文章で伝えるとか、自分に合ったやり方(飛行機)を組み合わせればいい。

逆に、その人のWillが「伝えること」ではなく「分析すること」にあるなら、プレゼンの練習に時間を使うこと自体がエネルギーの無駄遣いだ。分析に全力を注ぎ、伝える部分は得意な人に任せる方がいい。

つまり、判断基準はいつもWillにある

自分のWillに直結する部分は、努力してでも自分でやる。そこに自分らしさがあるから。 自分のWillとは関係ない部分は、仕組みや他者の力を借りて補う。自分らしさが要らないところだから。


三つの「飛行機」の型

具体的に、飛行機にはどんな種類があるのか。大きく三つに分けて考えている。

① 道具で補う

自分のWillとは関係ない作業を、ツールや仕組みで代替する。

記憶力に自信がないなら、メモやタスク管理ツールに外注する。計算が苦手なら、スプレッドシートに任せる。今の時代なら、AIに壁打ち相手になってもらうことだってできる。

これは最もシンプルな飛行機だ。差がつかない部分、自分らしさが要らない部分を、道具に任せる。

② 人で補う

自分が苦手なことを、得意な人に任せる。

これは「丸投げ」とは違う。自分の特性と、相手の特性を理解した上で、最も効果的な配置を設計するということだ。

僕はこれを「座席設計」と呼んでいる。飛行機には、パイロットの席もあれば、整備士の席もある。全員がパイロットである必要はない。大事なのは、それぞれが最も力を発揮できる席に座っていることだ。

③ 環境を変える

自分が力を発揮できる環境を選ぶ、もしくは造る。

大人数の会議では発言できないけれど、少人数なら活き活きする。オフィスでは集中できないけれど、自宅なら深く考えられる。

自分を環境に合わせるのではなく、自分に合った環境を設計する。

どの飛行機にも共通しているのは、自分のWillが活きる場所に全力を注ぐために、それ以外を構造で支えるという考え方だ。


飛行機を造ることは、自分を活かすことだ

飛行機を造ることは、「自分には能力がないから仕組みに頼る」という敗北宣言ではない。

ペンギンが飛行機に乗ることは、「飛べない自分」を認めることではない。「泳ぐことに全力を注ぐために、飛ぶという課題を別の方法で解決する」ということだ。

そして、飛行機に乗っているペンギンにしかできないこともある。高い空から海を見渡して、一番いい漁場を見つけること。それは、空を飛ぶ鷹にも、海を泳ぐだけのペンギンにもできない。自分の特性と仕組みを組み合わせた者だけが見える景色がある。


まとめ:努力の「向き」を選ぶ

このシリーズでは、これまでにいくつかのことを確認してきた。

  • 命は有限だ。だから自分を大切にしていい。
  • 自分を変えなくていい。構造を疑おう。
  • 止められてもやめられないこと、それがあなたのWillだ。

そして今回、これらを統合する考え方を提示した。

筋トレが辛いなら、飛行機を造るという選択肢がある。自分らしさを出すところにこそ努力を集中し、それ以外は仕組みに任せよう。

努力の量を増やすのではなく、努力の向きを選ぶ。それが、設計者としての最も基本的な解決の型だ。

別の記事では、この考え方を使って、人生のハンドルをどう握り直すか、具体的な話にも踏み込んでいる[※2]


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この記事を書いた人

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程修了。

新卒から総合コンサルティングファームに入り、約6年ITや業務のコンサルを行う。研修会社に転職し、研修講師・企画等を行ったのち、人事領域全般に関わる、人材紹介会社グループのコンサルティングファームに。社内から組織や人材を良くしたいという希望から、事業会社で人事責任者などを経験。

趣味は多岐にわたる。断続的に続いているものだけでもゲーム(特にRPG, ドラクエシリーズ)、小さい頃から好きだった音楽(特に歌うこと)、社会人になってからフィットネスクラブ通い、コロナになってから始めた写真などは今も断続的に行っている。

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