センターピンを見つけた、のに
「ここだ」と見極めた。施策を打った。ロジックも通っている。なのに、何も変わらない。現場は動かない。成果が出ない。
正しいはずなのに、当たらない。この経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。
これは、センターピンが間違っているとは限らない。ボールの投げ方に問題がある可能性がある。
三つの「当たらない」原因
ボウリングで1番ピンに当たらない原因は、大きく三つに分かれる。
① 視点のズレ ―― そもそもピンが見えていない
狙うべきピンを間違えている。見えている課題と、本当のセンターピンが違う。表面の症状を根っこだと思い込んでいる。
② 軌道のズレ ―― コースが逸れている
センターピンは見えている。でも、ボールがそこに届いていない。打つ順序が間違っている。投げる相手が間違っている。施策は正しいのに、実行のプロセスが機能していない。
③ 衝撃のズレ ―― 力が伝わっていない
センターピンも見えている。コースも合っている。でも、ボールが弱すぎてピンが倒れない。正しいことを言っているのに、現場に響かない。相手が動かない。
この三つを、僕は「視点・軌道・衝撃」と呼んでいる。施策が空振りしたとき、この三つのどこにズレがあるかを診ることで、打ち手を修正できる。
視点のズレ:見ているものが違う
最も根深いのが、視点のズレだ。
たとえば、「社員のモチベーションが低い」という課題。これをセンターピンだと思って、モチベーション研修を導入する。でも何も変わらない。
なぜか。モチベーションの低下は「症状」であって「原因」ではないからだ。原因は、評価の不透明さかもしれない。業務の属人化かもしれない。上司との関係性かもしれない。
情報の非対称性[※1]が残っている状態でセンターピンを特定しようとすると、この罠に陥りやすい。見えている情報だけで因果を辿ると、途中で地図が途切れる。途切れた先に本当のセンターピンがあるのに、手前の症状を根っこだと思い込む。
視点のズレを防ぐために大事なのは、「これは本当に原因なのか、それとも症状なのか?」と常に問い続けることだ。「なぜ?」をもう1回だけ余分に繰り返す。その1回が、見えている世界を変えることがある。
軌道のズレ:順序と配置が違う
センターピンは見えている。でも、ボールがそこに届かない。これが軌道のズレだ。
よくあるのは、「順序」の間違い。
たとえば、「業務の属人化」がセンターピンだとわかった。だから、マニュアルを作ろうとする。正しい判断だ。でも、マニュアルを作る前に、そもそも「何が属人化しているのか」を可視化する作業が必要だ。いきなり「マニュアルを作れ」と言っても、現場は「何を書けばいいかわからない」と止まる。
もう一つは、「配置」の間違い。
誰がボールを投げるか。自分が投げるのか、他の人に投げてもらうのか。センターピンに最も近い人は誰か。自分が正しいと思っても、現場との距離が遠ければボールは届かない。
軌道のズレは、施策の中身ではなく「プロセス」の設計ミスだ。何をやるかは合っているのに、どうやるか、誰がやるか、どの順番でやるかが合っていない。
衝撃のズレ:正論が響かない
三つ目が、衝撃のズレだ。
これは、正しいことを言っているのに現場が動かないパターン。リーダーが最も苦しむのが、このケースだと思う。
衝撃がズレる原因は、たいてい相手の文脈を無視していることにある。
自分にとってのセンターピンが、相手にとってもセンターピンとは限らない。相手には相手のWillがあり、相手の現実がある。「これが正しいんだからやってくれ」というのは、ボウリングで言えば、ものすごいスピードのボールをレーンの外に投げているようなものだ。速くても、当たらない。
均衡の設計[※2]で書いた通り、相手のWillと自分のWillが釣り合うポイントを見つけることが重要だ。相手が「自分にとってもメリットがある」と感じなければ、どんなに正しい施策も動かない。
正論を「相手の言葉」に翻訳する。相手の文脈に橋を架ける。それが衝撃を正しく伝えるための技術だ。
三つを同時に診る
施策が空振りしたとき、多くの人は「施策が間違っていたのでは」と考える。つまり、視点のズレだけを疑う。
でも、実際には軌道や衝撃のズレであることも多い。施策の中身は合っているのに、順序を変えるだけで動き出すこともある。伝え方を変えるだけで響くこともある。
まず視点を確認する。 狙っているピンは本当にセンターピンか?
次に軌道を確認する。 ボールはそこに届くプロセスになっているか? 順序は? 担い手は?
最後に衝撃を確認する。 届いたボールは、相手に響いているか? 相手の文脈で翻訳できているか?
この三つを順に診るだけで、「なぜうまくいかないのか」の仮説が立てやすくなる。そして、仮説が立てば、修正ができる。
「投げ方」を振り返る
ここまで読んで、一つ自分に問いかけてみてほしい。
自分には、どのズレの癖があるだろうか。
分析が好きな人は、視点にばかり時間をかけて、実行(軌道)が遅れがちかもしれない。行動力のある人は、とにかく投げるが、相手への配慮(衝撃)が足りないかもしれない。調整力のある人は、プロセス(軌道)は完璧だが、そもそも狙うべきピン(視点)がズレているかもしれない。
設計者にとって大事なのは、自分の投げ方の癖を知っていることだ。癖を知っていれば、空振りしたときに何を修正すればいいかがわかる。
視点・軌道・衝撃。この三つのレンズを、組織をハックするための地図として持っておいてほしい。
