【Will&Nexus 24/49】良かれと思った一手が、別の場所で火を吹く。

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良かれと思って打った一手が、別の場所で火を吹く

組織を変えようとするとき、最もよくある失敗がある。

「施策が正しいのに、予想外の副作用が出る」というパターンだ。

たとえば、残業を減らそうとして、「20時以降は強制消灯」にする。残業時間は確かに減る。数字上は改善だ。でも、仕事の量は変わらない。結果、朝早く来る人が増えたり、家に持ち帰る人が増えたり、品質を落として帳尻を合わせる人が出てくる。

施策は正しかった。残業を減らすべきだという判断は間違っていない。でも、施策の「先」に何が起きるかを読めていなかった

これが、因果の連鎖を見落としている状態だ。


因果の「地図」を描く

因果関係は、多くの場合一直線ではない。

AがBを引き起こし、BがCを引き起こし、CがAに戻ってくる。連鎖し、ループし、分岐する。

この連鎖の構造を、僕は「因果の地図」と呼んでいる。

地図を描かずに施策を打つのは、土地勘のない場所をカーナビなしで走るようなものだ。目の前の道は見えているが、この先にどんな交差点があって、どこで行き止まりになるかがわからない。

因果の地図を描くとは、「この施策を打ったら、一次的に何が変わるか。その変化が、二次的にどこに波及するか。波及した先で、三次的に何が起きるか」を、できる限り可視化することだ。


連鎖を読む三つのステップ

具体的なやり方を整理しよう。

ステップ①:一次効果を特定する

施策が直接的に変えるものは何か。「強制消灯」なら、一次効果は「20時以降のオフィス在席時間がゼロになる」だ。

ステップ②:二次効果を想像する

一次効果が起きたとき、それに反応して何が変わるか。「オフィスにいられないが、仕事は終わっていない。どうする?」→「家に持ち帰る」「朝早く来る」「品質を落とす」。

ここで重要なのは、人は施策に「適応」するということだ。新しい制約が与えられたとき、人はその制約の中で最適化しようとする。その適応行動を想像できるかどうかが、設計の精度を決める。

ステップ③:ループを探す

二次効果の先に、元の問題を悪化させるループはないか。「品質が落ちる」→「クレームが増える」→「クレーム対応で業務量が増える」→「さらに残業が必要になる」。これは悪循環のループだ。

三つのステップすべてを完璧に予測することは不可能だ。でも、一次効果だけで満足せず、二次・三次まで想像する習慣を持つことで、予想外の副作用は大幅に減る。


全体最適の実現方法

記事10[※1]で「部分最適が全体を壊す」と書いた[※1]

因果の地図は、全体最適を具体的に実現するためのツールだ。

部分最適が起きるのは、「自分の範囲の一次効果」だけを見て判断しているからだ。因果の地図を描けば、自分の範囲の外に波及する二次・三次効果が見える。見えれば、事前に手を打てる。

たとえば、A部署が新しい施策を打つ前に、B部署への影響を因果の地図で確認する。影響が大きければ、B部署と事前に調整する。あるいは、B部署への副作用を緩和する別の施策を同時に打つ。

全体最適とは、すべてを同時に改善することではない。副作用を予測し、先に手当てしておくことだ。


地図を描かなかった日

僕自身、因果の連鎖に巻き込まれた経験がある。

あるプロジェクトでPMを務めていたとき、基本設計の段階で顧客に方針を何度も確認した。「ここを変えると大幅な手戻りになるので、この方針で間違いないですか」と、口を酸っぱくして確認した。その時点では、顧客からの異論はなかった。

ところが終盤になって、「やっぱり気に入らない」と方針のひっくり返しがあった。

ここで因果の連鎖が始まる。

営業と上司が顧客先に出向き、「関係性を守る」という判断で、契約範囲外の修正を無償で引き受けてきた。PMである僕はその場にいなかった。相談もなかった。決まった後で、「こうなったから対応してほしい」と降りてきた。

一言相談があれば、影響範囲を伝えられた。「ここを動かすと、これだけの工数がかかる。メンバーの負荷はこうなる。並行している案件にも影響が出る」と。でも、その機会がないまま判断が確定してしまった。

一次効果としては、顧客との関係は維持された。 組織としての判断だから、決まったこと自体は仕方がない。

でも、二次効果を誰も読んでいなかった。スコープ外の作業がチームに降りかかり、メンバーに大量の残業が発生した。体調を崩すメンバーも出た。

さらに三次効果があった。その火消しに人員を割いたことで、僕が並行して進めていた自社の改革プロジェクトがストップした。「顧客を守る」という一手が、巡り巡って自社の変革を止めてしまった。

振り返れば、僕自身にも反省がある。顧客の感情面にもっと丁寧に寄り添っていれば、終盤のひっくり返し自体を防げたかもしれない。でもそれとは別に、構造の問題があった。影響を受ける人に相談なく判断が下され、一次効果だけで意思決定がなされた。その先の波及を、誰も地図に描かなかった。

善意の判断でも、影響範囲を知る人に一言確認するだけで、結果は大きく変わる。 僕はあの経験以来、「この判断の先に、何が起きるか」を三手先まで想像する癖がついた。そして、自分が判断する側のときは、影響を受ける人に必ず声をかけるようにしている。


「風が吹けば桶屋が儲かる」を意図的に作る

因果の連鎖は、ネガティブな方向だけに働くわけではない。

ポジティブな連鎖を意図的に設計することもできる。

たとえば、マネージャーが部下の話を丁寧に聞くようになる(一次効果)。部下が安心して発言できるようになる(二次効果)。会議の質が上がる(三次効果)。アイデアが増える。成果が出る。マネージャーの評価が上がる。マネージャーがさらに部下の話を聞く余裕ができる。

これが、正の循環ループだ。

センターピン思考[※2]で最も大切なのは、打った一手がポジティブな連鎖を生むポイントを見つけることだ。因果の地図は、そのポイントを探すための道具だ。

施策を打つ前に地図を描く。打った後に地図を更新する。 その繰り返しが、設計の精度を上げていく。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程修了。

新卒から総合コンサルティングファームに入り、約6年ITや業務のコンサルを行う。研修会社に転職し、研修講師・企画等を行ったのち、人事領域全般に関わる、人材紹介会社グループのコンサルティングファームに。社内から組織や人材を良くしたいという希望から、事業会社で人事責任者などを経験。

趣味は多岐にわたる。断続的に続いているものだけでもゲーム(特にRPG, ドラクエシリーズ)、小さい頃から好きだった音楽(特に歌うこと)、社会人になってからフィットネスクラブ通い、コロナになってから始めた写真などは今も断続的に行っている。

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