「なぜ反対するんだ」
新しい施策を提案したとき、必ず反対する人がいる。
「今のやり方で問題ないのに、なぜ変える必要があるのか」 「リスクが大きすぎる」 「現場の負担を考えているのか」
提案する側からすれば、苛立つ。明らかに改善なのに。データもある。ロジックも通っている。なのに、反対される。
別の記事で「正しいだけでは人は動かない」と触れている[※1]。ここでは、反対する側の心理構造をもう少し掘り下げてみたい。
変化=脅威、という脳の設計
人間の脳は、変化を脅威として処理するようにできている。
進化の過程を考えれば当然だ。未知の環境は危険だった。慣れた場所、慣れた行動パターンから離れることは、生存リスクを高めることだった。
だから、脳は「今の状態を維持しよう」とする。これがホメオスタシス(恒常性維持機能)だ。体温を一定に保つのと同じように、心理的にも「今の安定」を保とうとする。
組織の中で「変化に反対する人」は、多くの場合、脳の防衛本能に従って合理的に行動しているだけだ。
わがままでもない。頭が固いわけでもない。変化が自分の「今のハッピー」を脅かすと感じているから、防衛しているだけだ。
反対派が守っている「均衡」
もう少し踏み込もう。
反対する人は、何を守っているのか。
今の均衡だ。
記事14[※2]で書いた通り[※2]、人は無意識のうちに、自分の中で均衡を作っている。今の仕事のやり方、今の人間関係、今の評価のされ方。それらが一応のバランスを保っていて、大きな不満はない。
そこに変化が来ると、その均衡が崩れる可能性がある。崩れた先に何があるかわからない。わからないことは怖い。
反対の正体は、「変化の内容」への反対ではなく、「均衡が壊れることへの恐怖」であることが多い。
これに気づくだけで、反対派への向き合い方が変わる。
反対派を「敵」にしない
反対派を敵として扱うと、何が起きるか。
対立構造ができる。「改革派」と「守旧派」。推進する側と抵抗する側。こうなると、エネルギーの大部分が「相手を打ち負かすこと」に使われる。
でも、均衡の設計[※2]で書いた通り、相手のWillを押さえ込む構造は持続しない。
反対派は、押さえ込んでも消えない。表面上は従っても、心の中で抵抗し続ける。実行段階でブレーキがかかる。静かにサボタージュする。
反対派を敵にする設計は、エネルギー効率が最も悪い設計だ。
では、どうすればいいか。
恐怖の構造を理解する
まず、反対派が何を恐れているかを特定する。
別の記事で触れる三つの問い[※1]——「相手が一番怖いことは何か」——をここで使う。
「今の仕事のやり方が変わって、自分の経験が通用しなくなるのが怖い」。 「新しい制度で、自分の評価が下がるのが怖い」。 「慣れたチームが解散させられるのが怖い」。
恐怖の内容がわかれば、その恐怖を取り除く構造を設計できる。
「新しいやり方でも、あなたの経験は活きる。むしろ、こういう形で活きる」と伝える。「新しい評価制度では、あなたがやってきたこの部分が、より正当に評価される」と示す。
反対派のWillを殺すのではなく、変化の先にも反対派のWillが活きる構造を見せる。これが、設計者のアプローチだ。
「わかる」だけで、半分解決する
もう一つ、実務的に大事なことがある。
反対派の恐怖に対して、「その気持ちはわかる」と認めるだけで、抵抗が半分くらい減ることがある。
人は、「自分の恐怖を理解されている」と感じると、防衛本能が少し緩む。「この人は自分を打ち負かそうとしているのではなく、自分の状況を理解しようとしている」と感じると、対話の余地が生まれる。
これは迎合ではない。相手の恐怖を認めた上で、「でも、こういう理由で変化が必要だと考えている」と伝える。順序が大事だ。
先に恐怖を認め、次にビジョンを語る。 この順序を逆にすると、ビジョンは届かない。
変化のスピードを設計する
最後に、もう一つの視点。
変化のスピードそのものが、反対の大きさを決める。
一度に大きく変えようとすると、脳の防衛反応は最大になる。でも、小さな変化を段階的に入れていくと、脳は適応する余裕ができる。
記事25[※3]のシーケンシング[※3]で書いた通り、小さな成功を先に作る。成功体験が一つあれば、「次の変化も大丈夫かもしれない」と脳が学習する。
反対派は、変化そのものに反対しているのではない。変化のスピードと、変化の先にある不確実性に反対している。
スピードを調整する。不確実性を減らす情報を出す。この二つだけで、反対は驚くほど小さくなることがある。
反対する人を理解できたとき、怒りは消える。構造が見えるからだ。そして、構造が見えれば、設計できる。
