「自分を変えなきゃ」の疲れ
「自分を変えなきゃ」と思い続けて、疲れていないだろうか。もっとポジティブに。もっと積極的に。もっと強く。
この記事の結論を先に言う。性格は変えなくていい。変えるのは「使い方」だ。
組織を診る目と、自分を診る目は、同じ設計者の目だ。組織の構造をいくら直しても、それを診ている自分のOSが曇っていたら、同じ問題が繰り返される。
だから、自分という「系(システム)」のメンテナンスは、組織をハックするための精度を上げることでもある。
「ダメな自分」という誤診
自分について考えるとき、多くの人がこういう思考に陥る。
「自分はリーダーシップが足りない」「コミュニケーションが下手だ」「メンタルが弱い」「優柔不断だ」。
こうした「ダメな自分」の診断は、ほとんどの場合、誤診だ。
なぜか。性格(ハード)とOS(ソフト)を混同しているからだ。
性格はハード、OSはソフト
パソコンに例えるとわかりやすい。
パソコンには、ハードウェアとソフトウェアがある。
ハードウェア(性格・特性)は、その人が生まれ持った、あるいは長い年月で形成された土台だ。内向的か外向的か。慎重か大胆か。論理的か感覚的か。これは簡単には変わらない。変える必要もない。
ソフトウェア(OS・思考の癖)は、その土台の上で動いている「考え方のプログラム」だ。「リーダーはこうあるべきだ」「弱みを見せてはいけない」「全部自分でやらなければいけない」。こうした思い込みは、長年の経験の中でインストールされたプログラムだ。
多くの人が「自分がダメだ」と感じているのは、ハードウェアの問題ではない。古くなったOS(プログラム)が、現在の環境と合わなくなっているだけだ。
内向的な人が「リーダーは外向的であるべきだ」というOSを持っていたら、苦しいに決まっている。でも、それは内向性がダメなのではなく、OSがハードウェアに合っていないだけだ。
自分を「変える」のではなく「機能させる」
このシリーズでは一貫して、「自分を変えるのではなく、構造を変える」と書いてきた[※1][※2]。
自分自身に対しても、同じ原則が使える。
自分の性格(ハード)を変えようとしなくていい。考え方の癖(OS)を調整すればいい。
内向的な自分を外向的に変える必要はない。でも、「内向的だからリーダーは無理」というプログラムは書き換えられる。内向的なままでも機能するリーダーシップの型を設計すればいい。
優柔不断な自分を決断力のある人間に変える必要はない。でも、「一人で即断しなければいけない」というプログラムは書き換えられる。判断材料を構造的に整理してから決めるプロセスを作ればいい。
自分を改造するのではなく、自分の特性を活かすための構造を設計する。それが「自己の構造化」だ。
古いOSの見つけ方
では、自分の中にある「古いOS」をどうやって見つけるか。
一番わかりやすいサインは、「〜すべき」「〜でなければならない」という思考だ。
「リーダーは常に自信を持つべきだ」「弱みを見せてはならない」「結果を出さなければ価値がない」。
僕自身の話をすると、ある時期に自分の思考の癖を見つめ直す機会があった。そこで出てきたのが、「成果を出さなければならない」「他人の期待に応えなければならない」「もっと上を目指さなければならない」という三つの「ねばならない」だった。
どれも、言葉にしてみれば当たり前のことに見える。仕事で成果を出す。期待に応える。上を目指す。何が問題なのかと思うかもしれない。
でも、これらが無意識の前提として自分の判断を支配しているとき、問題が起きる。成果が出ていないと自分の存在価値がないように感じる。期待に応えられないと居場所がなくなるように感じる。目の前の仕事に集中すべきときにも、「もっと」を追い求めて消耗する。
気づいてみれば、これらは過去のどこかでインストールされたプログラムだった。受験、就活、コンサル時代の評価制度。「結果を出せ」「期待を超えろ」と言われ続けた環境の中で、知らず知らずのうちに自分のOSに書き込まれていた。
もう一つのサインは、繰り返される苦しさだ。「なぜかいつもこのパターンで辛くなる」と感じるなら、そこに古いOSが潜んでいる可能性が高い。
記事29[※3]で書いた「繰り返されるパターンを記録する」という作業は、組織のバグだけでなく、自分のOSのバグを見つけるためにも使える[※3]。
OSのアップデートは「否定」ではない
ここで大事なことがある。
OSをアップデートするというのは、過去の自分を否定することではない。
「リーダーは自信を持つべきだ」というプログラムは、かつてのあなたを支えてくれたかもしれない。そのプログラムのおかげで、踏ん張れた場面もあったはずだ。
でも、いつまでも同じ服を着ていたら、身体に合わなくなる。成長したからだ。古いOSを手放すのは、それが間違っていたからではない。自分が変わったからだ。
自分のハードウェアを愛する。その上で、ソフトウェアを今の自分に合ったものに入れ替えていく。
「ダメな自分を直す」のではなく、「今の自分を最も活かすプログラムを選ぶ」。 それが、自分という系を設計するということだ。
自分をシステムとして見る
自分を「良い人間」か「ダメな人間」かで評価するのは、もうやめていい。
自分を、一つのシステムとして見る。ハードウェア(特性)があり、ソフトウェア(OS)があり、入力(情報や環境)があり、出力(行動や成果)がある。
出力がうまくいかないとき、ハードウェアを壊す必要はない。ソフトウェアを見直せばいい。入力を変えてもいい。環境を変えるのも一つの手だ。
自分を責めるのではなく、自分をデバッグする。それが、設計者として自分の人生と向き合う作法だ。
