【Will&Nexus 35/49】三日坊主は、意志が弱いからじゃない。

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なぜ「頑張る」は続かないのか

新年の抱負。「今年こそ毎朝ランニングする」「資格の勉強を毎日30分やる」「本を月に5冊読む」。

1月は頑張る。2月も何とか続く。3月、だんだんサボり始める。4月、「また来年」。

この挫折のパターンを、多くの人は「意志が弱いから」だと思っている。

でも、記事02[※1]で書いた通り[※1]、動けない原因は意志の弱さではなく、構造の問題であることがほとんどだ。

新しい行動が続かない構造的な原因、それがホメオスタシス(恒常性維持機能)だ。


ホメオスタシスは「敵」ではない

ホメオスタシスとは、身体が「いつもの状態」に戻ろうとする力のことだ。

体温が上がれば汗をかいて下げる。血糖値が下がれば空腹を感じて食べさせる。身体は常に「今の状態」を維持しようとする。

この力は、心理面にも働く。

「今の生活パターン」を維持しようとする。「今の人間関係」を維持しようとする。「今の自分」を維持しようとする。

新しい行動を始めると、ホメオスタシスが「元に戻せ」と引っ張る。これが、三日坊主の正体だ。

大事なのは、ホメオスタシスは敵ではないということだ。

ホメオスタシスがあるから、僕たちの身体は安定して機能している。毎日体温を意識して調整する必要がないのは、ホメオスタシスのおかげだ。

問題は、ホメオスタシスが「今の自分」を基準にしていることだ。今の自分が快適なポイントに設定されているから、そこから離れると引き戻される。


「基準点」を書き換える

ここがポイントだ。

ホメオスタシスの「基準点」を、未来の理想的な状態に書き換えれば、身体は勝手にその状態に向かう。

これは比喩ではない。エアコンの設定温度を考えるとわかりやすい。

設定温度が25度なら、部屋が暑くなるとエアコンが冷やす。寒くなると暖める。常に25度に戻そうとする。

設定温度を28度に変えたら? エアコンは28度を「普通」として維持する。何も頑張らなくても、28度に向かう。

人間の行動も同じだ。 「毎朝6時に起きて運動する自分」が「当たり前」だと脳が認識すれば、ホメオスタシスはその状態を維持しようとする。起きないと気持ち悪くなる。運動しないと落ち着かなくなる。

問題は、どうやって設定温度を変えるかだ。


臨場感が設定温度を変える

記事31[※2]で「臨場感」について書いた[※2]

臨場感とは、まだ実現していない未来の状態を、あたかもすでにそうであるかのように感じる力のことだった。

臨場感がホメオスタシスの基準点を書き換える。

「毎朝6時に起きて運動する自分」を、ただの目標として掲げても、基準点は変わらない。「いつか、そうなれたらいいな」では弱すぎる。

でも、その状態を当たり前に感じられるレベルまで臨場感を高めると、基準点が移動する。「自分は毎朝6時に起きて運動する人間だ」という自己認識が変わる。

すると、ホメオスタシスが「新しい自分」を維持しようと動き出す。努力感なく、身体が勝手にその方向に動く。


「自動巡航モード」の実装

これを僕は、「自動巡航モード」と呼んでいる。

飛行機のオートパイロットと同じだ。目的地を設定したら、あとは自動で飛んでいく。パイロットが常にハンドルを握っている必要はない。

人生にも、自動巡航モードを実装できる。

ポイントは、「頑張る」を「当たり前」に変換することだ。

最初は意志の力で始める。これは仕方ない。でも、しばらく続けているうちに、それが「普通」になる瞬間がある。歯を磨くのに意志の力が要らないのと同じだ。

その瞬間が来るまでの期間をどう乗り越えるかが、設計のポイントだ。

記事25[※3]で書いたシーケンシング[※3]が使える。最初から「毎朝6時に1時間運動」ではなく、「毎朝6時に起きて5分だけ外に出る」から始める。小さな成功体験を積み重ねて、ホメオスタシスの基準点を少しずつ移動させる。


「努力」は移行期のコスト

ここまでの話を整理しよう。

努力が必要なのは、ホメオスタシスの基準点が移動する「移行期」だけだ。

古い基準点から新しい基準点へ移動するまでの間、引き戻す力と戦う必要がある。これが「頑張っている」状態だ。

でも、新しい基準点に定着したら、もう頑張る必要はない。ホメオスタシスが新しい状態を維持してくれる。

つまり、永遠に頑張り続ける必要はない。基準点を移動させるまでの、一時的なコストだ。

そう考えると、気持ちが楽になるのではないだろうか。「一生頑張り続けなきゃいけない」と思うと辛い。でも、「このしんどさは、基準点が移動するまでの一時的なものだ」と思えれば、もう少し踏ん張れる。

意志の力は、ホメオスタシスの基準点を移動させるための一時的なブースターだ。エンジンではない。エンジンは、ホメオスタシスそのものだ。


自律とは、「理想を当たり前にすること」

このシリーズで「自律」という言葉を使うとき、僕が意味しているのは、これだ。

自律とは、理想の状態を「自分にとっての当たり前」にすること。

他人に管理されなくても、自然とその方向に向かう状態。努力感なく、自分のWillに沿って動ける状態。

それは、意志の力で毎日自分を律することではない。ホメオスタシスの力を味方につけて、理想に向かう自動巡航モードを設計することだ。

まず、「なりたい自分」をできるだけ具体的にイメージしてみてほしい。そして、その自分が「当たり前」に感じられるまで、小さなステップを積み重ねてみてほしい。

ある朝、気づくと、頑張っているつもりがなくなっている。 それが、基準点が移動した瞬間だ。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程修了。

新卒から総合コンサルティングファームに入り、約6年ITや業務のコンサルを行う。研修会社に転職し、研修講師・企画等を行ったのち、人事領域全般に関わる、人材紹介会社グループのコンサルティングファームに。社内から組織や人材を良くしたいという希望から、事業会社で人事責任者などを経験。

趣味は多岐にわたる。断続的に続いているものだけでもゲーム(特にRPG, ドラクエシリーズ)、小さい頃から好きだった音楽(特に歌うこと)、社会人になってからフィットネスクラブ通い、コロナになってから始めた写真などは今も断続的に行っている。

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