なぜ「頑張る」は続かないのか
新年の抱負。「今年こそ毎朝ランニングする」「資格の勉強を毎日30分やる」「本を月に5冊読む」。
1月は頑張る。2月も何とか続く。3月、だんだんサボり始める。4月、「また来年」。
この挫折のパターンを、多くの人は「意志が弱いから」だと思っている。
でも、記事02[※1]で書いた通り[※1]、動けない原因は意志の弱さではなく、構造の問題であることがほとんどだ。
新しい行動が続かない構造的な原因、それがホメオスタシス(恒常性維持機能)だ。
ホメオスタシスは「敵」ではない
ホメオスタシスとは、身体が「いつもの状態」に戻ろうとする力のことだ。
体温が上がれば汗をかいて下げる。血糖値が下がれば空腹を感じて食べさせる。身体は常に「今の状態」を維持しようとする。
この力は、心理面にも働く。
「今の生活パターン」を維持しようとする。「今の人間関係」を維持しようとする。「今の自分」を維持しようとする。
新しい行動を始めると、ホメオスタシスが「元に戻せ」と引っ張る。これが、三日坊主の正体だ。
大事なのは、ホメオスタシスは敵ではないということだ。
ホメオスタシスがあるから、僕たちの身体は安定して機能している。毎日体温を意識して調整する必要がないのは、ホメオスタシスのおかげだ。
問題は、ホメオスタシスが「今の自分」を基準にしていることだ。今の自分が快適なポイントに設定されているから、そこから離れると引き戻される。
「基準点」を書き換える
ここがポイントだ。
ホメオスタシスの「基準点」を、未来の理想的な状態に書き換えれば、身体は勝手にその状態に向かう。
これは比喩ではない。エアコンの設定温度を考えるとわかりやすい。
設定温度が25度なら、部屋が暑くなるとエアコンが冷やす。寒くなると暖める。常に25度に戻そうとする。
設定温度を28度に変えたら? エアコンは28度を「普通」として維持する。何も頑張らなくても、28度に向かう。
人間の行動も同じだ。 「毎朝6時に起きて運動する自分」が「当たり前」だと脳が認識すれば、ホメオスタシスはその状態を維持しようとする。起きないと気持ち悪くなる。運動しないと落ち着かなくなる。
問題は、どうやって設定温度を変えるかだ。
臨場感が設定温度を変える
臨場感とは、まだ実現していない未来の状態を、あたかもすでにそうであるかのように感じる力のことだった。
臨場感がホメオスタシスの基準点を書き換える。
「毎朝6時に起きて運動する自分」を、ただの目標として掲げても、基準点は変わらない。「いつか、そうなれたらいいな」では弱すぎる。
でも、その状態を当たり前に感じられるレベルまで臨場感を高めると、基準点が移動する。「自分は毎朝6時に起きて運動する人間だ」という自己認識が変わる。
すると、ホメオスタシスが「新しい自分」を維持しようと動き出す。努力感なく、身体が勝手にその方向に動く。
「自動巡航モード」の実装
これを僕は、「自動巡航モード」と呼んでいる。
飛行機のオートパイロットと同じだ。目的地を設定したら、あとは自動で飛んでいく。パイロットが常にハンドルを握っている必要はない。
人生にも、自動巡航モードを実装できる。
ポイントは、「頑張る」を「当たり前」に変換することだ。
最初は意志の力で始める。これは仕方ない。でも、しばらく続けているうちに、それが「普通」になる瞬間がある。歯を磨くのに意志の力が要らないのと同じだ。
その瞬間が来るまでの期間をどう乗り越えるかが、設計のポイントだ。
記事25[※3]で書いたシーケンシング[※3]が使える。最初から「毎朝6時に1時間運動」ではなく、「毎朝6時に起きて5分だけ外に出る」から始める。小さな成功体験を積み重ねて、ホメオスタシスの基準点を少しずつ移動させる。
「努力」は移行期のコスト
ここまでの話を整理しよう。
努力が必要なのは、ホメオスタシスの基準点が移動する「移行期」だけだ。
古い基準点から新しい基準点へ移動するまでの間、引き戻す力と戦う必要がある。これが「頑張っている」状態だ。
でも、新しい基準点に定着したら、もう頑張る必要はない。ホメオスタシスが新しい状態を維持してくれる。
つまり、永遠に頑張り続ける必要はない。基準点を移動させるまでの、一時的なコストだ。
そう考えると、気持ちが楽になるのではないだろうか。「一生頑張り続けなきゃいけない」と思うと辛い。でも、「このしんどさは、基準点が移動するまでの一時的なものだ」と思えれば、もう少し踏ん張れる。
意志の力は、ホメオスタシスの基準点を移動させるための一時的なブースターだ。エンジンではない。エンジンは、ホメオスタシスそのものだ。
自律とは、「理想を当たり前にすること」
このシリーズで「自律」という言葉を使うとき、僕が意味しているのは、これだ。
自律とは、理想の状態を「自分にとっての当たり前」にすること。
他人に管理されなくても、自然とその方向に向かう状態。努力感なく、自分のWillに沿って動ける状態。
それは、意志の力で毎日自分を律することではない。ホメオスタシスの力を味方につけて、理想に向かう自動巡航モードを設計することだ。
まず、「なりたい自分」をできるだけ具体的にイメージしてみてほしい。そして、その自分が「当たり前」に感じられるまで、小さなステップを積み重ねてみてほしい。
ある朝、気づくと、頑張っているつもりがなくなっている。 それが、基準点が移動した瞬間だ。
