ずっと「ダメ出し」されてきた
学校の通知表。「もう少し積極的に発言しましょう」。就活のフィードバック。「リーダーシップをもっとアピールしてください」。会社の評価面談。「コミュニケーション力を改善してください」。
人生は、「足りないもの」を指摘される連続だ。
そして、指摘されるたびに、そこを直そうとする。苦手なことに時間を使い、エネルギーを注ぎ、少しだけ改善して、また次の「足りないもの」を指摘される。
この繰り返しに、消耗していないだろうか。
記事05[※1]で書いた話をもう一度思い出してほしい[※1]。ペンギンに空を飛べと言う残酷さ。 苦手なことを気合で直そうとするのは、まさにこれだ。
バグは直すものか、迂回するものか
プログラミングの世界では、バグに対するアプローチが二つある。
一つは、バグを直す(Fix)。原因を突き止め、コードを修正する。これが基本だ。
もう一つは、バグを迂回する(Bypass)。バグがある部分を避けて、別のルートで同じ目的を達成する。バグが深刻だが修正コストが高すぎるとき、実務ではよく使われる手法だ。
人間にも、直すべきバグと、迂回すべきバグがある。
記事30[※2]で、ハードウェア(性格)とソフトウェア(OS)の区別を書いた[※2]。ソフトウェアのバグは直せる。考え方の癖、思い込み、古いプログラム。これらは書き換えられる[※3]。
でも、ハードウェアに近い特性——内向的か外向的か、論理的か感覚的か、慎重か大胆か——は、直すコストが極めて高い。直そうとすると、莫大なエネルギーを消費する。しかも、直ったとしても、無理をし続けなければ維持できない。
ハードウェアに近いバグは、直すよりも迂回した方が合理的だ。
個人版「飛行機」を造る
迂回するとは、具体的にどういうことか。
記事05[※1]の「飛行機」の話を、個人に適用してみよう。
ペンギンは飛行機に乗れば空を飛べる。苦手なことを克服するのではなく、苦手なことを補う仕組みを造る。
たとえば、僕はプレゼンテーションの「見た目の演出」が得意ではない。スライドを凝ったり、身振り手振りでパフォーマンスしたりすることは、正直言って苦手だ。
でも、記事05[※1]で書いた通り、研修講師として結果が出たのは、演出を磨いたからではなく、自分の言葉で、自分のリズムで話すというスタイルを見つけたからだ。
苦手な「演出」を直すのではなく、得意な「論理で語る」にリソースを集中させた。足りない演出は、スライドの設計で補った。つまり、苦手をバイパスして、得意で勝負する構造を作った。
これが「個人版飛行機」だ。
欠点を愛でる
もう一歩踏み込もう。
苦手なことは、本当に「欠点」なのか。
内向的であることは、欠点か。慎重であることは、欠点か。のんびりしていることは、欠点か。
多くの場合、それは環境が定義した欠点だ。外向的なリーダーシップが求められる環境では、内向的であることは欠点に見える。でも、深く考えて正確に判断することが求められる環境では、内向的であることは強みになる。
つまり、特性そのものに良し悪しはない。その特性と環境の組み合わせに、合う・合わないがあるだけだ。
記事05[※1]で書いた「噛み合わせ」の問題だ。自分が悪いのではなく、構造がズレているだけだ。
だから、自分の特性を「直すべき欠点」として扱うのではなく、「設計に活かすべき素材」として扱う。
素材を知り、素材を活かす構造を設計する。それが、自分のバグをバイパスするということだ。
全エネルギーを「得意」に乗せる
最後に、エネルギーの話に戻ろう。
このシリーズでは、エネルギーの効率を繰り返し語ってきた。摩擦を減らし、Willが真っすぐ届く構造を作る。
苦手を直すことに使うエネルギーは、摩擦そのものだ。
苦手なことに10のエネルギーを注いで、2の改善が得られる。これは効率が悪い。
得意なことに10のエネルギーを注いで、20の成果が得られる。これは効率がいい。
苦手克服に使っていたエネルギーを、得意なことに全投入する。 それだけで、トータルの成果は劇的に変わる。
もちろん、最低限の社会的スキルは必要だ。人として基本的なことができなければ、組織で機能しない。でも、「最低限」と「完璧」の間には大きな差がある。最低限を満たしたら、あとは得意に全振りした方がいい。
苦手を直す人生は、もう終わりにしよう。得意なことに全エネルギーを乗せる人生を、設計しよう。
