ドロドロの正体
組織の人間関係がうまくいかないとき、「人の問題」だと思いがちだ。
「あの人は自己主張が強すぎる」「あの部署は協力的じゃない」「あの上司は聞く耳を持たない」。
でも、このシリーズで繰り返し書いてきた通り、多くの「人の問題」は、構造の問題を人に投影しているだけだ[※1]。
では、人間関係のドロドロの「構造的な正体」は何か。
エゴ(防衛本能)の衝突だ。
エゴは「武装」である
記事27[※2]で、変化に反対する人は「今のハッピーを守りたいだけだ」と書いた[※2]。
人間関係のドロドロも、同じ構造だ。
人は、不安を感じると防衛する。自分の領域を守ろうとする。自分の成果を守ろうとする。自分の存在価値を守ろうとする。
この防衛反応が、外から見ると「エゴ」に見える。自己主張が強い。縄張り意識が強い。他者を攻撃する。
でも、エゴの正体は「不安からの武装」だ。安心感があれば、人は武装する必要がない。武装を解けば、エゴは静まる。
安心を「構造」で作る
「もっとオープンにコミュニケーションしましょう」「お互いを尊重しましょう」。
こうした呼びかけは、善意ではあるが、効果は限定的だ。なぜなら、不安の原因(構造)が残ったまま、行動だけを変えようとしているからだ。
記事34[※3]のブリーフシステム[※3]を思い出してほしい。個人の行動を変えるには、個人の内側のプログラムを書き換える必要がある。でも、組織全体の行動を変えるには、環境(構造)を変える方がはるかに効率的だ。
では、どんな構造が安心感を生むのか。
情報の透明性だ。
記事11[※4]で書いた通り[※4]、見えないものは不安を生む。評価がどう決まっているかわからない。方針がどうやって決まったかわからない。自分がどう思われているかわからない。
わからないから、想像する。想像するから、最悪のシナリオを思い描く。最悪のシナリオから身を守るために、武装する。
情報を透明にするだけで、防衛反応は大幅に減る。 人の性格を変えなくても、人間関係のドロドロは構造で解消できる。
「性格を直せ」は設計の放棄
「あの人の性格を直してほしい」。
マネジメントの相談で、こういう要望を受けることがある。
でも、僕はこう答える。
「性格を直す必要はありません。環境を変えましょう」。
攻撃的な人がいる。その人の攻撃性は、性格から来ているように見える。でも、よく観察すると、攻撃的になるのは特定の場面だけだ。情報が足りないとき。自分の立場が脅かされていると感じるとき。評価が不透明なとき。
つまり、その人が攻撃的になるトリガーは、環境にある。トリガーを取り除けば、攻撃性は収まる。
これは性格を否定することではない。性格はそのままでいい。性格の「発火点」を知り、発火させない環境を設計する。 それが、構造的な平和の作り方だ。
第3部との違い——「ハック」から「自走」へ
第3部では、組織を「ハック」する方法を書いた。センターピンを見つけ、施策を打ち、構造を書き換える。設計者が能動的に手を入れる話だった。
第4部では、設計者自身——つまり「個」のメンテナンスを扱った。OSを更新し、認知を調整し、セルフマネジメントのリズムを整えた[※5]。
この第5部では、第3部とは違う問いに向き合う。
第3部の問いは「組織のどこにバグがあるか」だった。第5部の問いは、「設計者がいなくても、組織が自分で回り続けるにはどうすればいいか」だ。
ハックは一回限りの介入だ。でも、設計者がずっと介入し続けなければ回らない組織は、まだ「自走」していない。
個のノイズが減ると、面白いことが起きる。自分を守るための「エゴの壁」が不要になる。壁が不要になると、他者やチームとの間に、エネルギーがスムーズに流れ始める。
構造的平和とは、個と組織の間にあるエゴの壁を、構造の力で溶かしていくことだ。そして、エゴが溶けた先に、設計者がいなくても回り続ける「自走する組織」が見えてくる。
性格を変えなくても、人は変わる。環境が変われば、同じ人が驚くほど穏やかに、そして力強くなることがある。
